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成功者から学ぶ-さびれていく寺院と発展していく寺院の違いは?-
教化布教に欠かすことのできない寺族の存在
──住職夫人が檀信徒を巡礼旅行に連れて行く──
臨済宗妙心寺派龍雲寺(東京都世田谷区)

「寺族」「寺庭婦人」「大黒」「坊守」など、寺院に嫁いだ女性のことを呼ぶ名称は多い。この寺族の役割は決して小さなものではないが、どうしても住職の補助的な立場であるという印象が強い。
例えばある宗派の寺族規定には、「寺族」について次のような定義がなされている。
《寺院に在住する僧侶以外のものを「寺族」という》《寺族は、住職を補佐し、寺門の興隆、住職の後継者の育成及び檀信徒の教化につとめなければならない》
宗派の規定においても「住職を補佐し」と定義されているのである。
しかし実際には、寺族がいなくては、とどこおり無く活動していくことのできない寺院のほうが多いのではないだろうか。
特に、檀信徒が寺院を訪れたときに、最初に応対するのは住職夫人であることが多い。寺院で行事がなされるとき、檀信徒の夫人たちが大きな力を発揮するが、彼女たちに様々な指示をするリーダーは住職夫人である。その他様々な点で、寺族は大きな役割を果たしているのである。
臨済宗妙心寺派龍雲寺(細川景一住職/東京都世田谷区)の住職夫人である細川要子さんもその1人である。特に近年、四国八十八カ所などに檀信徒を連れて巡礼に行くのは、要子さんの役割となっている。龍雲寺における要子さんの役割を見ながら、寺族について考えてみたい。

巡礼が終わったら、生き生きして帰ってきた

 龍雲寺では、平成12年に四国八十八カ所の巡礼を始めた。春夏2回、檀信徒数十名をつれて四国に向かう。この巡礼の旅、実は住職夫人の要子さんが、企画から手配、道中の世話まで全て中心となって行っている。要子さんが手作りで作り上げていった巡礼旅行なのである。
 四国八十八カ所巡礼は、昨年までに6回行われている。1回が3泊4日。4回で八十八カ所全てを巡って満願となったので、既に2巡り目に入ったということだ。
 こうした巡礼を重ねる中で、様々な経験をさせられたと言うが、中でも昨年2回参加した50歳の女性のことは強く印象に残っているという。

 その女性は、一昨年の12月に、大切な娘を23歳で亡くしてしまった。ショックがあまりにも大きかったため、ほとんど何も食べずに、泣いてばかりで毎日を過ごしていたという。そんな時、要子さんがこの女性に、「お遍路さんに行かない?」と巡礼の旅に誘ったのである。
 女性は初め、「そんな気分ではないので」と巡礼に行くことを躊躇していた。しかし、「娘さんのためのお詣りだから」という要子さんの言葉が心に響いたのか、悩んだ末、巡礼を決意するのである。
 巡礼の旅に向かったが、もちろんすぐに娘への気持ちの整理がついたわけではなかった。春の巡礼では、道中、時々想い出して、目に涙を浮かべることもあったという。それでも何とか、霊場を巡って、家に戻ることができた。
 そしてこの半年後の秋の巡礼に参加者を募ったとき、この女性が「ぜひ参加させてください」と言ってきたのである。「春の巡礼に参加して、どうだったのだろう。よかったと思ってくれただろうか」と時々思い返していた要子さんにとっては、とても嬉しい参加だったようだ。
 巡礼に出発しても、前回のように道中でめそめそしてしまうようなことも無かった。そして何よりも、霊場を巡拝する姿が実に生き生きしていたというのだ。
 巡礼が終わってから、女性はお礼に龍雲寺を訪ねてきた。そして振り返って、「不謹慎かもしれないけど、お遍路さんに行って、とても楽しかった。夫も、私が元気になって帰ってきたのを見て、とても喜んでくれた」と話したのだという。
 この言葉は、要子さんにとってとても嬉しいものであった。また、巡礼の旅がいかにすばらしいものかを再確認するものでもあったのである。
 「この女性は、亡くなった娘のことばかり考えて、気分がどんどん落ちこんでいった。けれど巡礼に行って、気持ちを家から離したことで、生きる元気を取り戻せた。娘を亡くした時に、『旅行に行こう』と言われても、なかなか行く気分にもなれないし、周りの目を気にして行きにくいということもある。けれど『お詣り』ならば、『娘のため』ということもあり、行きやすい。この他にも、夫を亡くした女性など、何らかの悩みを抱えて参加した人も少なくない。私は、皆さまがどんな気持で参加されたのかを全部知っているわけではないが、霊場を巡ってお詣りすることで、何かをつかんで家に戻っているように思える」(要子さん)

 龍雲寺の巡礼は、四国八十八カ所だけではない。四国へ行ったことをきっかけに、秩父三十四カ所、板東三十三カ所にも行くようになった。ちなみに昨年は、四国八十八カ所に31名、秩父三十四カ所に54名、板東三十三カ所に29名の参加があった。

大窪寺で四国八十八カ所結願の記念写真。
大窪寺で四国八十八カ所結願の記念写真。白衣には、住職の筆によって一枚一枚、「南無大師遍照金剛」「同行二人」と書かれている。

 実はこの巡礼旅行を、要子さんが中心となって行うようになったのには理由がある。
 龍雲寺で巡礼旅行を始めたのは、ある時、檀家総代の奥さんが要子さんに言った「私も四国八十八カ所のお遍路さんに行きたい。お寺で連れて行ってもらえないかな」という一言がきっかけだった。
 これを聞いた他の檀信徒の中にも、「自分も行きたい」と考えた人が多かった。そのため、龍雲寺ではすぐにでもみんなを連れて行きたいと考えたが、ひとつ大きな問題があった。実は住職の細川師が平成9年から、臨済宗妙心寺派の宗務総長に就任したため、週末以外は京都の本山で執務についているという状況にあったのである。
 「お遍路さんに」という話が出始めた時は、「やっぱり住職に連れて行ってもらいたいから、任期が終わるまで待とう」と考える人も多かった。しかし、「お遍路さんに行きたい」と考える人の多くが高齢だったため、次第に、「住職が戻ってくるまで待っていたら、身体が動かなくなってしまうかもしれない。それまで待ってられない」という声が出始めたのである。
 今まで何回か、妙心寺団体参拝、奈良・吉野グルメツアー、京都おしゃべりツアー(女性だけの旅行)、京都ドラゴンツアー(龍めぐり)など、旅の企画をしていたので、また「奥さんが企画して、四国に連れて行ってくれないかな」ということになったのである。
 当初この提案に、要子さんは戸惑った。これまで寺の大黒として、龍雲寺と細川住職を支えてきていたが、自分が檀信徒を連れて巡礼に行くというようなことを、想像したことは無かったのである。しかし、「連れて行って欲しい」という檀家の思いがあまりにも熱心なものだったため、要子さんも「それに応えなければ」と考えるようになっていった。こうして龍雲寺は、巡礼旅行を行うことになったのである。

女性ならではの気配り

 最初に四国八十八カ所に行った時は、誰もが何も知らない状態だったので、旅行会社にすべてを任せての巡礼であった。しかし一度行ってみて要子さんは、「これならば私にもできるかもしれない」と考えるようになった。そして次からは、宿やバスの手配から始まって、行程表作成や事前の説明会などすべてを自分で行うようになったのである。
 結局要子さんは、2回目以降、巡礼のお世話すべてを行うようになったが、いつしかそれを楽しむようになっていたという。「こうしたことは、嫌いじゃ無いみたいですね。もともと何かをつくり上げていくというのは好きだったから」と。

 そして要子さんは、巡礼旅行をつくっていく中で、色々な工夫をするようになっていった。それは例えば次のようなことだ。
 霊場から霊場への移動で、普通は目的地に着く直前にバスガイドのアナウンスがあるが、それを直前ではなく、5分程前にアナウンスするようバスガイドに頼んでおくというのだ。移動の時間が長いと、みな疲れているので、寝てしまうことが多い。だからアナウンスがあってから、目を覚まし、霊場を参拝する準備を始める。そうするとバスが目的地に着いてから降りるまでに、5分くらいはすぐに経ってしまう。1日に8カ寺以上巡拝すると、全部で1時間近いロスが出てしまう。これを早めに準備してもらえるようにしておけば、時間の節約になり、その分早めに寝て疲れを取ってもらうことができるというわけだ。
 またバスの席順への配慮もある。基本的には思いやりの心を基本に自由な席順で座ってもらうが、最年長の人を一番前、自分(要子さん)を後にすることだけは決めているという。高齢者の中には足の悪い人も多く、前を歩いている人がいると、ついて行かなくてはならないと焦ってしまう。階段のある霊場も多く、フーフー言いながらやっと登って、本堂でお経をあげるどころではないという人もいる。それを歩くのが遅い最年長の人をバスの一番前に座ってもらうようにすれば、バスを最初に降りて、ゆっくり霊場に向かってもらうことができる。後の人は、そのペースにあわせてゆっくり歩けばいい。要子さんはバスの後ろの席から最後に降りて、前の人の様子を見ながら歩く。ゆっくり本堂の前に向かい、要子さんが着いたところで、全員でお経をあげるという段取りにする。こうすれば高齢者も無理なく、巡礼を続けることができるのである。
 また旅行の最終日に、入浴と夕食を済ませてから帰るという工夫もある。みな数日間家を空けているため、帰っても冷蔵庫は空である。その上、疲れていて、食事をつくる元気も無い。だから、歯を磨いて寝るだけという状態で家に戻してあげたい、という要子さんの想いから生まれた工夫である。
 他にも細やかな配慮が色々と為されているが、全て、回を重ねて気付いたことをもとに工夫したものである。これらは普通、見落としがちなものばかりである。一つひとつは小さなことかもしれない。しかし、色々なかたちでの気遣いが重ねられることで、旅の疲れは大きく軽減される。高齢者が多い巡礼の旅では、とても大切なことである。女性ならではの気遣いということが言えるであろう。

 一般的に檀信徒の中で、寺院の活動に積極的に参加するのは、50歳以上であることが多い。その中には、身体のどこかが悪い人もいるし、配偶者を亡くして淋しい生活を送っている人もいる。こうした高齢者の気持ちは、男性よりも女性のほうが、理解できるものである。高齢者の側でも、男性より女性のほうが話しやすいということもある。それゆえ住職夫人は、細やかな気遣いという点で男性の住職にできない様々なことができるのだ。
 教化の現場は、僧侶である住職のテリトリーであると考えられやすいが、住職夫人もそこに参加することで、教化に大きな広がりができるのである。


寺院は人が集ってこそ生き生きする
 龍雲寺は、参拝や来客の絶えることが無い実に賑やかな寺院である。
 いつも、たくさんの「書生さん」が暮らしているということも、賑やかさの理由でもあろう。地方寺院の子弟や、檀家で両親を亡くしてしまった少年など、常に6人前後の「書生さん」が暮らしている。これまでに59人の「書生さん」が龍雲寺で暮らし、それぞれの道に旅立っていった。こうした「書生さん」の食事もすべて要子さんがつくる。そのため、食事の時は実に賑やかである。「自分の子ども4人に加えて、いつも10人くらいの子どもがいるようなもの」であるという。
 「書生さん」の中には、現在は自坊に戻って、住職や副住職となっている僧侶も多い。前述の巡礼の時などは、この中の何人かが、僧侶として同行してくれる。そして龍雲寺で暮らし育ち、全国にちらばったたくさんの僧侶たちは、これ以外でも様々な面で力となってくれるという。
 そして何よりも龍雲寺は行事の多い寺院である。
平成15年1月18日に龍雲寺本堂で行われた麻生花児氏によるテナーコンサート。
平成15年1月18日に龍雲寺本堂で行われた麻生花児氏によるテナーコンサート。本堂は約300人の聴衆で埋まった。

 毎週日曜日早朝の坐禅会は、細川住職が指導するが、宗務総長となってからも必ず行うようにしている。
 毎月1回(2、7、8月は休み)の花園法話会は、松原泰道師を迎え、『仏教の根本思想』というテーマで続けられている。
 花園子ども会も毎月1回行われており、正月の百人一首から始まり、お茶会、ハイキング、盆踊り、餅つきなど月ごとに内容を変えて、様々な催しを行っている。発足してから既に28年の歴史ある子ども会であり、現在は30人前後の子どもたちが参加している。
 その他にも、写経会、長唄三味線の会、ヨガの会、囲碁の会、獅子舞の会、詩吟の会、御詠歌などが行われているが、中でも龍雲寺綱引きクラブは特に活発なものである。
 昭和60年に世田谷区の綱引き大会があった時、それに参加するために発足したクラブである。メンバーは地域の人がほとんどだ。職業も様々で、大工、布団屋、米屋、石材店、瓦屋、酒屋など自営業の人が多い。
 こうしたメンバーが、毎週月水金の夕方、仕事が終わってから集まり、練習が始まる。練習で汗をかいたら、シャワーを浴び、みんなでビールを飲みながら練習のビデオを見ての反省会が始まる。細川住職も、宗務総長として京都に赴任する前は、いつも反省会に参加し、クラブのメンバーとビールを飲むことを楽しみにしていた。
 メンバーは、週3回の練習をほとんど欠かすことが無い程、一生懸命に練習を続けていた。そしてついに9年に行われた東京都綱引連盟綱引選手権大会で優勝することになるのである。
 これらの会やクラブの参加者は、どれも檀信徒が半分、地域の人が半分といった割合である。そしてみな龍雲寺に行くことが楽しみで、催しに参加している。龍雲寺を中心とした、ひとつのコミュニティーが生まれているのである。
 龍雲寺としても、あらゆる活動を、檀信徒という枠組みに限定して考えることはなく、地域に開かれた寺院をめざしている。
 人が集ってこそ、寺院は生き生きとした姿となり、寺院らしい活動ができるのである。

(月刊『仏事』2003/2月号より)

 
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